純白エプロンとマンションのベランダ
俺が吾郎と一緒に暮らすようになってから、もうだいぶ経つ。
吾郎の家は、所謂高層マンションの上階。部屋は勿論、家具から家電から、俺が使っていたものよりずっと立派で、買い物ひとつするにしても金銭感覚が違ったりで、はじめのうちは戸惑うことだらけだったが、何かと気を遣ってくれる吾郎のお陰で、そう長くかからず慣れることができた。
ただそれに比例して、最近、「普通」というものがどういうものなのか、分からなくなりつつある。
体位に関しては、最早言うまでもなく。
生クリームだの、チョコレートだのの類なら、塗られるのにも塗られたのを舐めるのにも、すっかり慣れてしまった。
ただカレーは、色と匂いがひっつくので、もう止めてほしいと思った。
ワカメ酒の酒を、いかに漏らさず股間に溜めておけるか、太腿をどう合わせるのが良いのか、それを会得してしまった時には、自分の染まり具合にちょっと頭を抱えた。
車で出掛ければ、大体そのまま車内でか、外か……大概両方なんだが。
まぁ俺も、外でってのはそう嫌いじゃないというか、好きかもしれないと思うところも否めない。
ただ正直、今の吾郎の車は、俺達には少し狭い。
だから、アメリカに行ったら車は大きめのを買おうなと言ったら、別荘にあったサイモンの車かっぱらってくれば良かったと言われた。
車買う金くらい、メジャーで活躍して稼いでみせろ!
……って、言い返しておいたけどな。
とにかく、良くも悪くも、そんな生活にすっかり慣れてしまった頃。
吾郎が暫く、試合の関係で家を外した。
帰宅予定は今日の夜……というか、そろそろだ。
「……どうするかなぁ……」
俺は、壁のハンガーにかけられたエプロンを見て、逡巡した。
純白の、レースのあしらわれた、新妻が身につけるようなやたら可愛らしいエプロンだ。
何故そんなものがあるのか、一体誰の趣味なのかについては、俺は敢えて語りたくない。
試しに服の上から着けてみたが、リボンはかなりギリギリだし、なにより丈が短すぎて、ちょっと脚を上げただけで股間が丸見えになってしまう。
「けどなぁ……」
心音がうるさい。
どうするか、やるか、やらないか。
「……ッ、クソッ!」
俺は自棄気味に服を脱ぎ捨てると、その、白いエプロンだけを身につけた。
服を着たままの時より、リボンは少しだけ結び易くなったが、丈はやっぱり微妙すぎる。
しゃがんだら見えるんじゃないかコレ。
どうしよう、やっぱり服を着るか。
少し前に、ライナーで連絡があったから、多分あと5分もせず帰ってくる。
まだ間に合う、やめるなら今……いやいや。
ここまできて引き下がれるか!
俺は気合を入れ直し、覚悟を決めて玄関に向かった。
そして、玄関マットに正座して待つこと暫し。
吾郎が帰ってきた……!
「ただいまけーちゃん!」
俺は、膝の上に置いた両拳を、ぐっと強く握りしめ、正座したままで吾郎を見上げて……
「おかえりダーリン。ごはんにする? お風呂にする? それともお……」
「もちろんお前だ!!」
────。
靴から、荷物から、服から、そこらに放り出したままで、玄関で第一ラウンド。
背中が汚れるとの抗議は、当然ながら聞き入れられなかった。
勿論、俺のエプロンは着けっぱなし。
「……、ぅぁ……、ア、吾ろ……ッ、出……っ」
「いーよ、白いエプロンだし、汚れたって問題ないっしょー」
いや、大いにある気がするんだが……!
「それに汚れたのは、俺のズリネタとして保管するから」
「ズリネタ……って、馬ッ、鹿……、……っ、アァッ!」
やはり、エプロンは汚れてしまった。
腕を引かれて身を起こし、口付けて、このまま多分風呂場で第二ラウンドかな……と思いきや、ベランダに連れて行かれ、手摺に身体を押しつけられた。
「えっ、吾郎……何………」
恐る恐る振り返り、訊ねると、吾郎は俺の尻に指を這わせながら、とても楽しそうな笑顔を浮かべていた。
「ばッ……! だ、誰かに見つかったら、どうすんだ……!」
「や、77階のベランダだし、絶対わかんねーって」
「そうかもしれないけど……ッふァ……!」
反論を試みたところで、、硬くなっているモノを押し当てられてしまえば、やはり性欲が勝ってしまう。
眼下に夜景を眺めながら、立ったまま、バックで突かれる開放感と背徳感。
揺さぶられるたびに漏れそうになる声を堪えようにも、もう完全に、どこが好いのか把握されていて……!
「ック……、……ぁ……、ウん……ッ!」
次第に抑えがきかなくなる。
「ふ、ァ……、吾郎、っ……! は、ァアッ……!」
高まる熱に、崩れそうになる脚を支えようと、手摺に必死で縋り付く。
どうせ、誰からも見られやしないし、聞こえも……
「ははっ、隣のベランダには声聞こえるけど、な」
「……ッ!!」
このタイミングでそれを言うか!!
明らかな動揺は、すぐに吾郎に伝わった。
動きが、今までとは違い、イかせようとするものに変わる。
が、ここで出したら、確実に、77階という高所から精子を撒き散らすというひどいことになる。
けど……ッ!
「ほら、遠慮なくどぴゅどぴゅしちまえよう」
「ば、ッ……っ、あ、ァァッ……!!」
前に手を伸ばされて、扱かれてしまえば、抵抗なんてできるはずがない。
「ぅぁ……、ッ、ぁ……」
熱を吐き出した脱力感と、羞恥と罪悪感が綯い交ぜになっているところに、二度目の精が注ぎ込まれ、それに押し出されるようにして、残滓が足下にぼたりと垂れた。
「く、ッ……吾郎………ッ!」
「そんな怒んない怒んなーい」
赤くなった顔で睨んだところで、吾郎には効果などない。分かってる。
「さー、風呂行って後始末せんとねー♪」
そう言って、後始末だけで終わったためしなんかない。
そして俺も、少なからず期待している。
「な、吾郎……」
「けーちゃんなーに?」
「明日って……オフだよな……」
誘うように訊ねれば、吾郎は、すぐに気付いてくれた。
多分、今夜は朝まで眠れないし、眠らせない。
愛してるよ、マイダーリン……。
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